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第三章 和歌、俳句に登場する蛙

 第二節 季語としてのカエル

 季語は、俳諧において季節感を出すために読み込むよう定められた言葉である。ゆえに季語にはその季節らしさが凝縮されている。季語として登場するカエルには、俳句という短い形式でカエルを表現するための要素がつまっているはずである。そこで、俳諧が盛んになった近世ではどのようなカエルに関する季語が使用されていたか調べてみた。

 

 カエル関係の季語

『近世前期歳時記十三種本文集成並びに総合索引』 勉誠社 昭和56年12月
『近世後期歳時記十三種本文集成並びに総合索引』 勉誠社 昭和59年12月

 上記二冊の本は、俳句が盛んになった近世(江戸時代)の歳時記を集めた本である。

(歳時記ー季語を集めた本のこと)

近世の歳時記にはどのような蛙の季語が掲載されていたのか抜き出してみる。

 近世前期

季語 掲載されている歳時記名・季節(季節は旧暦)
蛙(かはづ) 『至宝抄』 『花火草』(2月) 『山之井』 『増山井』 『番匠童』(2月)
蛙(かへる) 『至宝抄』 『毛吹草』(中春) 『増山井』 『をだ巻』(2月) 『新式』(二月の詞) 『通俗誌』(2月)
蛙子(かへるこ) 『初学抄』(中春) 『毛吹草』(2月) 『山之井』 『増山井』 『をだ巻』 『新式』(二月の詞) 
蛙鳴く 『通俗誌』(3月)
雨蛙なく 『をだ巻』
蟇蛙
(ひきがえる)
『山之井』 『増山井』 『番匠童』 『新式』
青蛙 『新式』

近世後期

季語 掲載されている歳時記名・季節(季節は旧暦)
蛙(かはづ) 『季引』
枝の蛙
(えだのかはづ)
『清鉋』(4月) 『手挑灯』(4月)  『糸切歯』(4月)  『部類』(4月)  『名知折』 『年浪草』 『小筌』(9月) 『歳時記』(4月)  『季引』
無声の蛙 『歳時記』(2月) 『季引』
蛙狩り 『糸切歯』(7月)
蛙飛び神事 『季引』(七月六日よしの)
蛙(かひる) 『歳時記』
蛙(かへる) 『清鉋』(2月) 『手挑灯』(2月) 『部類』(2月) 『年浪草』(2月) 『小筌』(2月) 『季引』
蝌斗(かへるこ) 『清鉋』(2月) 『手挑灯』(2月) 『部類』(2月) 『年浪草』(2月) 『季引』
蛙の目かる時 『年浪草』
蝦蟇化して鶉となる  『歳時記』(7月)
蟾(ひき) 『清鉋』(2月)
月の蛙 『清鉋』 (8月)

(ひきがへる)
『手挑灯』(2月) 『部類』(2月) 『年浪草』 『歳時記』 『季引』
山蛤
(あまかひる)
『歳時記』
雨蛙 『手挑灯』 (2月)『年浪草』(2月) 『小筌』(2月) 『歳時記』 『季引』
雨蛙なく 『清鉋』 『糸切歯』(4月)

 蛙(かへる、かはづ)は二月(春)という季節感が定着していたようである。もちろんカエルは夏から秋にかけてずっと活動を続けているのであるが、産卵のために鳴き活動するカエルの姿が、春という季節を表現するのにふさわしいとされたのだろう。

 雨蛙は夏の季語である。こちらは雨に鳴くカエルの姿である。

 枝の蛙(えだのかはづ)というのは少々特殊であるが、これは主に樹上に棲むアマガエルのことである。アマガエルの生活環境に注目した季語である。

 蛙狩り、蛙飛び神事は、毎年正月一日に諏訪大社で行われる「蛙狩りの神事」、七月七日に奈良県吉野蔵王堂で行われる「蛙飛びの行事」にちなんでいる。これらは毎年開催時期が決まっているので、季語として使用したのだろう。