第二章 日本文学における蛙の概観
第四節 近世
俳諧
近世は俳諧が盛んになった時代であり、多くの発句が詠まれた。このような中でカエルを題材にした発句も多く作られ、質の良いものも多く残された。松尾芭蕉「古池や蛙飛び込む水の音」が特に有名であるが、意外にも芭蕉の詠んだカエルの句は少なく、量で見ると小林一茶が群を抜いている。
俳諧については三章で詳しく述べる。
随筆
随筆とは、筆者の体験や見聞を題材に、感想をも交え記した文章である。日常の些細なことや珍しいことが記されることが多い。身近な存在であり、ガマの怪しげなエピソードが目立つカエルは、随筆の題材になりやすかった。例えば『耳袋』では四話、『甲子夜話』『甲子夜話三篇』『甲子夜話続編』併せて計十三話確認された。これらの文章は、一つ一つがそれほど長くはなく、メモ程度に書き残したものも多い。しかし随筆を書き残した層である当時の知識人達、そしてその周辺の人々がどのような目でカエルを見ていたかがよく分かる貴重な資料なのである。
浄瑠璃・歌舞伎・合巻
いずれも近世を代表する文学である。
浄瑠璃『傾城島原蛙合戦』では、敵である七草四郎が蝦蟇の術をつかう。彼の術は猛威を振るうが、最後には黄色の蛇によって術を破られてしまう。
歌舞伎『天竺徳兵衛韓噺』では、やはりガマの妖術を身につけた主人公が大暴れする。ここでも最終的には蛇の力によって術が破られている。
合巻『児雷也豪傑譚』は、四十三編から成る合巻である。合巻とは草双紙を何冊か合わせて一冊としたものである。黄表紙が伝奇化し長編化する傾向にあったので、このような内容に合わせた製本上の改革であった。主人公はガマの妖術を使う児雷也で、蛞蝓の術を使う綱手、蛇の術を使う大蛇丸と三すくみの術闘を展開する。
これらのジャンルは時代を代表するものであると同時にどちらかといえば一般大衆のための作品であった。どこか怪しげで、しかもストーリーを派手に演出できるガマの妖術という要素が、一般大衆に受けやすかったのだろう。