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第一章 蛙について

 

第1章では、蛙の基本的な事項について説明していく。

【蛙】

両生類無尾目の総称。俗称カエルに対しカハヅは歌語、雅語。
アマガエル、ヒキガエル、その他日本で約30種。
日本では、水田、沼、池など至る所にすみつき、気温の下がる冬季には冬眠し、二月ごろから夏にかけて盛んに鳴き立てる。

【蛙の呼び名】

 

カヘル     

(かえる、蛙)

蛙一般を指す。俗語。「蛙」の字の他に、「加閉流」(『和名抄』)「蝦蟇」(『和漢三才図絵』『物類称呼』)と表記される場合もある。
カハヅ   

(かわず)

カヘルの雅語。万葉集をはじめとする和歌文学では一般に「カハヅ」が用いられ「カヘル」とは言わない。カヘルとの違いについては、後の章で詳しく述べる。
カジカ      

(河鹿) 

カジカガエル。渓流の谷間などにすむ。清く澄ん だ声で鳴き、愛玩される。万葉集に「カハヅ」と して読まれているのは、カジカである場合が多い 。また、川魚にもカジカと呼ばれるものがあり、カジカガエルと混同されることもある。(『本朝食鑑』『重訂本草綱目啓蒙』)

 

ガマ     

(蝦蟇)

 現在の分類では、ガマガエルという種類の蛙は存在しない。(『日本カエル図鑑』)
 では、日本文学に登場するガマというのは一体何なのだろうか。
 調査の結果、文献によっていくつかのガマのパターンがあることが分かった。
 『訓蒙図彙』では、種類は特定できないが蛙(カハヅ、アマガエル)とも蟾蜍(ヒキ、ヒキガエル)とも別の物として扱われている。『和漢三才図絵』では、「蝦蟇」という漢字をあててカエルと読んでいる。『大言海』では「蛙ノ類ノ、大キナルモノノ稱」としている。具体的にはトノサマガエルやアカガエルなどを指すのではないかと思われる。のちにガマはヒキガエルと混同される傾向にあるが、『本草和名』でもヒキガエルと分類している。
 以上のことからガマは、蛙の通称としてのガマ、ヒキガエルを指すガマ、トノサマガエルやアカガエル等を指す場合のガマ、というように分けることが可能であると思われる。
  
ヒキ

(比木) 

 ヒキガエル。四肢が短く、腹が太く、暗褐色の背中に沢山の疣がある。背中や目の後方の耳腺から出す白色の分泌液は有毒である。(『大歳時記』集英社)
センジョ

(蟾蜍)

 ヒキガエルを指す。(『和漢三才図絵』『訓蒙図彙』)
タニグク

(谷潜、多邇具久)

 ヒキガエルを指す。古事記、万葉集、祝詞にみられる。
カツトウ、カト  

(蝌蚪)

オタマジャクシ。蛙子(カエルコ)ともいう。

 【蛙の分類】


 蛙は両生類とされているが、現在のような分類法が導入される以前の日本ではどのような種類に分類されていたか調べてみた。


『本草和名』(延喜一八年)              蟲魚
『倭名類聚鈔』(承平年間)              蟲豸部 蟲名
『訓蒙図彙』(寛文六年刊)              虫介
『本朝食鑑』(初版元禄元年)            蛇虫部
『和漢三才図絵』(正徳二年序)           蟲(虫)部 湿生類
『東雅』(享保二〜享保四)              蟲豸
『物類称呼』(安永四年乙未正月)         虫
『重訂本草綱目啓蒙』(享和三年〜文化三年)   虫部 湿生類


 主な辞典、本草の分類項目をあげてみたが、ほとんど虫を表す項目の中に入れられている。また、蛙と同じ項目に分類されている動物には、例えば蚯蚓(みみず『訓蒙図彙』『東雅』)、蝸牛(かたつむり『訓蒙図彙』『東雅』)蛞蝓(なめくじ『訓蒙図彙』)があげられる。

 蟲〔音は仲〕とは生物の微少なもので、その種類は大へん多い。足のあるものを蟲といい足のないものを豸という。蟲豸とは裸・毛・羽・鱗・介の総名である。虫の字と同じではない。
 虫〔音は毀〕は古は?という字を書いた。蛇の属でまむしの事である。形を象った文字である。それなのに、一般にこれを仲の音に読んで、蛇虫の虫を蟲豸の蟲のこととしている。そしていま、この間違いをそのまま通用させている〔和名は無之〕。   (『和漢三才図絵』)


虫  @1小さな動物。人、獣、鳥、魚、貝など以外の小動物の総称。主に昆虫類をさしていうことが多い。               (『国語大辞典』)


 虫というと昆虫だけを表す言葉のように思えるが、小さな動物は皆虫とされていたようである。だが、カエルは虫とされていたことは分かったが、現在昆虫とされている動物と同じ分類項目に入れられていることに、やや引っかかるものを感じる。ただ小さな動物であるというだけで同じ項目にされているのではなく、他に理由があるのではないかと思いさらに調査をしてみた。

『国語大辞典』を見てみると、虫には他にもいくつかの意味があり、その中には「美しい声でなくもの」という意味も含まれている。虫とされていた生き物達には、「鳴くもの」であるという共通点もあったのではないかと考えたが、結論を出すには至らなかった。

以上のことを頭に入れた上で、次の章から様々な作品を取り上げ、考察していきたい。